第10回コンペティション部門 選考総評について

田辺・弁慶映画祭コンペティション部門入選作品の選考委員長である掛尾良夫様より第10回の
入選作品選考にかかる「総評」を頂きましたのでお知らせ致します。



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第10回 田辺・弁慶映画祭 コンペティション選考総評


 私たち選考委員をはじめ、映画祭実行委員会も年を追うにしたがい、応募作品数が前年を
上回ってきたことに大きな喜びを感じてきた。しかし、ここ数年、私たちは応募数よりも、作品
の質的向上により大きな喜びと同時に驚きを感じるようになった。田辺・弁慶映画祭コ
ンペティションの第一の目標は、新たな才能の発掘と、彼等に映画界に一歩踏み出す機会を
提供することであり、強く商業公開を意識したものである。そして10回目は、私たちの目標
と合わせたように、応募作品のレベルも飛躍的にアップした。

 いわゆる自主映画のテーマは、時代背景とクリエーターの意識が色濃く現れる。田辺・弁慶
映画祭がスタートした10年前あたりまでは、“自分探し”と言われる題材をあつかったもの
が多数を占めていた。ある映画祭で、“自分探し”だらけの傾向に対する批判に対して、
「自分探しくらいさせてやれよ」という某監督の擁護まで飛び出した。

 田辺・弁慶映画祭の5〜6回目ころには、“姉弟愛”や“ボーイズ・ラブ”といったものが
目立つようになったが、10回目の今回は、“LGBT”、“介護”、“認知症”など、今の時代
が抱える多用なテーマが扱われるようになった。また、“自分探し”も、第8回の柴田啓佑監
督「ひとまずすすめ」、第9回の松本卓也監督「サーチン・フォー・マイ・フューチャー」
など、高い普遍性をもった領域に達した。

 映画のテーマは時代背景とクリエーターの意識が現れると記したが、現在、中東からは数
百万人を超える難民がヨーロッパに押し寄せ、世界の映画祭では、その厳しい状況を描いた
作品が集まる。そこでは日本映画はなかなか太刀打ち出来ない。

 しかし、田辺・弁慶映画祭10回目の応募作品全体を通して、現在の日本が抱える様々な問題
が、クリエーターそれぞれの固有の視点から描かれている。それらの作品は、単なる“閉塞
状況へのアプローチ”といった一般的な流れではなく、一作品ごとに、深い洞察があり、それ
が普遍性をもたらしている。これは、一見大きな問題を抱えていない日本という国で、若いク
リエーターたちが到達した世界的にも希有な領域である。そして、多くの作品が劇場公開に耐
えうるだけでなく、世界の映画祭でも受容される普遍性を有している。これらのクリエーター
は近い将来、世界の映画祭でも活躍する力を持っていると確信している。

 今回、160作品の応募から15作品ほどの一次通過作品を選出した。そこから最終的に8作品
を選出した。選出された作品とされなかった作品の差はほとんどなかったと思う。別の選考委
員が選べば別の結果が出たと思う。漏れた作品には、他の映画祭で高い評価を得た作品もあっ
た。ほとんど甲乙つけがたい作品から、我々選考委員は、前記した映画祭の目的により近いと
思った作品を選出した。

                  コンペティション部門 選考委員長 掛尾良夫

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