田辺・弁慶映画祭 特別審査員長 コンペティション選考について

 第15回 田辺・弁慶映画祭 コンペティション部門の応募本数は151作品と、昨年の第14回の123作品を大きく上回りました。
 私は、2021年3月末まで、大学で映画の教育に携わっていましたが、昨年初頭からの新型コロナウィルス感染拡大によって、大学での授業は2020年4月から2021年の春期(前期)まで、オンライン、もしくは受講者数を限定した対面授業というかたちで行われました。全国映画教育協議会(14大学が参加)の加盟校もほぼ同様の状況でした。その結果、30分の卒制(卒業制作作品)は10分ほどに短縮されたりしました。毎年、田辺・弁慶映画祭には卒制の応募が多数ありましたが、2021年3月の卒業生に限っては厳しい数字が予想され、応募本数も第14回の123本を下回るのではと危惧していました。ちなみに第10回以降でもファイナルに残った卒制や在学中の作品は、塚田万理奈「還るばしょ」(2014)、松本千晶「傀儡」(2015)、松尾豪『UNDER M∀ D GROUND』(2016)、竹内里紗「みつこと宇宙こぶ」(2017)、田中大貴「FILAMENT」(2017)、福田芽衣「チョンティチャ」(2018)、石井達也「すばらしき世界」(2018)、西川達郎「向こうの家」(2018)、山浦未陽「もぐら」(2019)、中川奈月「彼女はひとり」(2019)などがありました。
 しかし、結果は第13回の163本に迫る151作品の応募がありました。昨年、コロナ禍で完成に間に合わなかった作品が、2021年にずれ込んで来たとも考えられます。
 作品の傾向としては、コロナ禍でますます顕になった格差、逆境なかで暮らす人々、虐待やそのトラウマを抱えて生きる苦しさ、コミュニケーションの強迫観念からの精神的崩壊、ジェンダーなど、現代社会の問題、閉塞感を描いたものが多数ありました。
 第一次選考で残った20作品ほどから、8作品がコンペティションに選ばれました。近年は、実際の製作現場で活躍し、高度な技術水準と巧みな語り口の作品が多く見られるようになりました。一方、技術的には稚拙なところがありながら、作者が映画という表現を通して伝えたいことをしっかりと発信している作品もあります。そこに、田辺・弁慶映画祭の理念である、プロの映画作家を目指す人材を応援するという視点から、選考に臨みました。
 毎年、同じことを書いていますが、この一次選考に残った作品には顕著な差はなく、評価者が変われば、違う結果になることもあると思います。
 ファイナルに残った8作品は、前記した現代社会のさまざまな問題について、映画というメディアを通して、強いメッセージを発信し、エンターテインメントとしても魅力ある作品であることから選出しました。

田辺・弁慶映画祭プログラミングディレクター/特別審査員長 掛尾 良夫